創業明治十五年 卒塔婆・角塔婆・墓標・経木塔婆 「卒塔婆屋さん」本店

SWOT分析

その1.SWOT(強み・弱み、機会・脅威)分析の手法と活用

「知彼知己者、百戦不殆。不知彼而知己、一勝一負。不知彼不知己、毎戦必殆。」

彼(敵)を知り、己(おのれ)を知れば、百戦殆(あやう)からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆し。

これは古代中国、春秋末期の「孫子」謀攻編に書かれた有名な一節です。ご存じの方も多いと思います。

これと同じ思想で企業や事業の戦略をとらえようとするフレームが、「SWOT分析」です。

SWOTとは「Strength:強み」「Weakness:弱み」「Opportunity:機会」、「Threat:脅威」の頭文字をつなげたもので、 移り変わる市場環境(どのような機会や脅威があるのか)を見定め、それに対し自社の現在の状況(何が強みで何が弱みか)を明確化し、把握するプロセスです。

分析の際はタテヨコ二つの視点を交差させ、そのマトリクスでS・W・O・Tの各要素を見ていきます。

横軸では、自分たちを取り巻く市場や環境を見る視点から、内部的にはどうか、外部的にはどんな状況の変化があるか、を分析していきます。

縦軸は評価、判断の軸です。環境要因がプラスの方向に作用するのか、マイナスなのか、を見ていきます。このタテヨコ2×2の4象限を整理することで、いま自分たちが置かれている状況を把握する。これがSWOT分析です。

それでは、具体的にいま寺院を取り巻く状況について、このSWOTのフレームを用いて整理してみましょう。

寺院を取り巻くSWOTの状況を整理してみよう

大きめの紙にフレームを描く

まず、大きめの紙を用意します。小さくてもA3、できればそれ以上が望ましいでしょう。模造紙でも構いませんし、大きめのスケッチブックやスクラップブックでもよいと思います。

パソコンなどのデジタルツールではなく、物理的な「紙」を用いるのは、

・いつでも、どこでも用意できる

・メモを書いたり、ポストイットを貼ったりの作業が簡単

・複数の人数でも、紙を取り囲んで一緒に作業できる

からです。フレームももちろん手書きで構いません。上図のように、書き込める空間の部分を大きく確保します。

S・W・O・Tの要素をポストイット(付箋紙)に書き出す

ポスト・イットを用意し、お寺を取り巻くS:強み、W:弱み、O機会、T:脅威と思われる要素をそこに書いていきます。このときの注意事項としては

・ポスト・イット1枚につき1つの項目を書く

・「ちょっと違うかな?」と思ったことでも、とりあえず書いてみる

・参考資料を見ても構わないが、自分の感覚を信じる

・文章の巧拙は関係ないので気にしない

・「〇〇が〇〇する(しない)」と主語・述語を明確に記す

ことです。

ポスト・イット(Post-it)は3M社の商標ですが、似たような商品は100円ショップなどでも手に入ります。類似品を使っても良いのですが、経験上糊の強度や紙の反りなどの面で、やはり本家3Mの使い勝手がよいように思います。

サイズはベースとなる紙の大きさに合わせて選んでください。あまり小さいと書き込みがしにくく読みづらくなるので、小さくても2.5×7cm程度が限度と思われます。紙の色もピンク、水色、黄色などさまざまなものが発売されていますが、複数人で行う場合は人によって分ける、一人の時はSWOTの要素によって分けるなど、使い分けに意味を持たせると良いでしょう。

「これはSWOTのどこに入るのか?」「どこにもあてはまらないが重要なことだ」と思われる項目は、一旦枠の外に貼ってキープしておきます。後で有効に使える場合があります。

書いたポスト・イットをSWOTの各象限に貼る

内的環境×プラスの要素、内的環境×マイナスの要素、外的環境×プラスの要素、外的環境×マイナスの要素の各象限に、書き出したポスト・イットを分類しながら貼っていきます。もちろん、書きながら貼っていっても構いません。複数人で行っている場合は、話し合いながら進めてください。位置を決めにくいものがあったら、枠外に貼っておきます。

作業の途中で内容の重複に気づいたり、二つの内容に分割できる、など修正の余地があるものはどんどん直してしまって大丈夫です。上の図は、仮にこんなことが考えられる、と推測して作成したモデルです。

プロット(位置決め)が一旦終了したら、距離を離してしばらく眺めてみましょう。情報の過不足を見つけたり、項目の関連付けられて新たな項目を思いついたり、ということがあります。

上の図で、左上(内的環境×プラスの要素)の枠内が空欄になっていることにお気づきかと思います。ここは、実際にそれぞれの寺院が置かれた状況の中で、個別にプラスとなる内部の要素を記入する部分です。各寺院ごとに事情が異なると思われますので、事例ではブランクにしています。

その右側の(内的環境×マイナスの要素)も本来は個々で事情が異なるのですが、ここでは概ね共通する代表的な事項としていくつか挙げてみました。

(内的環境×プラスの要素)としては例えば、「後継者が育っている」「理解のある檀家様が多い」「観光資源がある」のような、今後の経営に資する要素を挙げてみてください。

同様に、外的環境の要素にも個々別々のものがあると思われます。例としては「都市や交通の整備計画がある」「近隣の大手企業が移転する」「地域の出生率が向上傾向にある」「寺が映画に登場した」などが考えられます。

寺院が置かれたSWOT状況のシミュレート

SWOT分析のイメージが、なんとなくつかめましたでしょうか。ここからは、一般的な社会状況の変化から類推するSWOTの環境要素を、シミュレートとして挙げていきます。

外的環境×プラスの要素の例

まず社会全体の動きの中から、お寺の運営にプラスの影響があると思われるものを列記してみます。抽出に際しては、普段感じ取っていることだけでなく、新聞や雑誌、業界紙などのメディアから情報収集することをお勧めします。

・お墓や供養に不安を感じている人が増えている

※一見マイナス要素のように思えますが、お寺は「どうしたらいいか分からない」人々に対して、答えと安心感を与えることができます。古い習慣や習俗に通じた世代が減っている現在、これは機会と捉えられます。

・お布施の費用、金額自体は以前と変わらない

・高齢化社会が進み、葬祭需要自体は増加の傾向にある。2007年以降、死亡数は出生数を上回る状態が継続

・「おひとりさま終活」など、個葬という概念が出現。終活の流行で故人自身の意思が顕在化、尊重されるようになり、終活の一般化で死に対する準備の障壁が低くなった

※「亡くなる前からお葬式の準備など縁起でもない」といった意識が変わり、後のことを生前から自分でしっかり決めておこうとする風潮が定着しつつあります。お葬式やお墓に関して、気軽な相談ができる機能が期待されています。

・SDGs(持続可能な開発のためのゴール)やサステナビリティ(環境を破壊せず、社会の継続性を重視する考え方)の思想が浸透

※無秩序な破壊や周囲への悪影響を是とせず、古くから続くもの、いまあるものを大事にしようという考え方と、日本の歴史の中で長く民間信仰と共にあった寺院とは、強く親和するものと思われます。それと共に、精神的な美徳を重んじる日本人が、先祖や人とのつながりを再評価する場面も、増えてくるのではないでしょうか。

外的環境×マイナスの要素の例

・コロナ禍で一般葬が半減、家族層や直葬(宗教儀礼を伴わない葬儀形態)が増加した。日程も一日葬が増加。参列者も減少し、小規模化の傾向に。一方、持続化給付金や緊急事態宣言に伴う一時金は対象外とされる

・「〇〇家代々」ではなく、一人または夫婦単位で墓が完結することを望む層が増加

・2022年では既に樹木葬を選ぶ人々が一般葬を抜いてトップに

・葬式費用を一切かけない「ゼロ葬」の登場、散骨や樹木葬など仏式葬儀以外の祭祀形態も多様化

・転勤や転居で、墓地の場所と居住地との距離が離れる傾向が強まった

・地方、地域の慣習やしきたりが敬遠されるようになった

・墓じまいの希望者が増加している

・少子化で墓を相続・管理する者(祭祀承継者)が減少している

・お寺のある自治体自体が過疎化の傾向にある

・送る人、送られる人ともに高齢化

・血縁による継承を前提としない永代供養墓や合同墓の利用増加

・人種、宗教宗派、ジェンダーレス、事実婚など価値観が多様化

・冠婚葬祭に関する経済的負担の縮小化

・お寺やと檀家の関係性、距離感が希薄化、変容している

・宗教法人全般に対する逆風の風潮、非課税を不公平視する論調

【参考リンク】

葬儀とその後にかかる費用のすべて(葬儀・飲食返礼品・お布施・香典・お墓・仏壇・遺言相続・遺品整理・空き家処分ほか)/第4回お葬式に関する全国調査 | はじめてのお葬式ガイド (e-sogi.com)

第13回 お墓の消費者全国実態調査(2022年)購入したお墓の種類は「樹木葬」が41.5%で3年連続シェア1位|株式会社鎌倉新書のプレスリリース (prtimes.jp)

内的環境×マイナスの要素の例

・お寺の老朽化、僧侶の高齢化、後継者不足

・施設の維持、修繕コストが高額になる

・収入減、収益性の低下が続く

・「坊主丸儲け」「税制の面で優遇されている」と思われてしまう

・墓じまいせずに放置された墓地、墓石の処理および廃棄の負担増

・少子化による併設幼稚園等の利用者減

これら以外にも、いろいろ考えられると思います。それぞれの寺院さまに即した状況要素を思い描き、これを機会に自寺院を中心としたSWOTの整理を一度行ってみてはいかがでしょうか。

「プラスの強み・機会=チャンス」を活用し、「マイナスの弱み・脅威=リスク」を軽減する

このようにSWOTの四つの象限が整理できれば、お寺の経営をめぐる状況を論理的に俯瞰することが可能となります。いままでなんとなく問題だと感じていたこと、分かってはいたが先延ばしにしていたこと、逆に「チャンスかも」と思いながら「いや、お寺は商売ではないのだから」と及び腰になっていたこと、などが明確な形で視覚化されるのです。

左側に並んだ「プラス(強みと機会)の要素」は、お寺にとっての今後のチャンスとなります。将来も継続して望ましい寺院経営を行っていくためには、これらを活用する方策を考えなくてはなりません。

一方、右側に並ぶ「マイナス(弱みと脅威)」はお寺にとってのリスクです。こちらは少しでも軽減し、克服していく術(すべ)を講じる必要があります。SWOT分析を行う過程で、寺院を取り巻く世の中の状況や問題点などが具体的にイメージされると共に、いろいろな情報をつかむことができるはずです。分析に取り組む前と比べて情報力が格段にアップしますので、活用や克服に向かうアイデアの幅や柔軟性も以前より高まります。

SWOTから発する一つの「解」の事例

檀家さまのお墓をお預かりする寺院の皆様は、「偲墓」という新しいサービス形態を耳にしたことがおありかと思います。webサイトでは「お墓のサブスク」※という表現をしていますが、現代の人々のお墓にまつわる悩みと、檀家の縮小傾向を憂う寺院の双方のニーズを組み合わせ、解決できないものかという発想から生まれたサービスです。

※サブスクリプション(subscription)の略称。一定の期間、一定の金額で商品やサービスを利用できるシステムのこと

偲墓(しぼ)〜お墓のサブスク〜 (inory.jp)

これは、ここまで述べてきたSWOTの視点から、強みと機会を活かし弱みと脅威を克服するアイデアの一つと言えます。

偲墓の発想が生まれたそもそもの発端は、地方への転勤が多い地域にあるお寺で「お墓を持っていきたいが何とかならないか」という相談が、檀家さんから寄せられたことだそうです。大企業や国家公務員として勤務する人々が多く住むエリアでは、従来の墓地形態に不便さを感じる「地域のニーズ」が存在していました。一方お寺の側では、年々減少傾向にある供養料や、いま以上拡げられない墓地用地、積極的な費用投資がしにくい経済事情、など複合するいくつかの課題がありました。

そこで、このご相談を契機として

・「お墓を持ち運びたい」というニーズを機会と考え、解決策を探った

・新規投資の必要性を抑えることで、弱みをカバーした

・仏具店、墓石店など既存のネットワークという強みを活用した

・「墓地用地の不足」という弱みを「デッドスペースの有効活用」に転換した

・「転勤や費用などの面から、供養の継続をあきらめる檀家が増加」という脅威を、「どうすれば継続できるか」という視点でとらえなおした

結果、このアイデアが出てきたというわけです。

利用者の側にしてみれば、「檀家の登録が不要」「全寺院で料金が一律」「料金体系が明確」「お墓の引っ越しが可能」「いつでも解約が可能」「土地に縛られない」「宗教宗派にとらわれない」「個のニーズに対応できる」という特徴が不安をなくし、お寺とお墓の利用に関する障壁を限りなく低いものにしてくれます。

また、このアイデアの良いところは、「どこにもしわよせがいかない」という点にあります。

偲墓の墓石をご用意する墓石店は、適性な利益で石を納品できます。従来型と異なり手間がかからず、費用も抑えられるので新規ご購入の機会増大が期待されます。お寺はといえば、新たに費用をかけることなく、お預かりした偲墓を小さなスペースでご供養でき、墓地不足も緩和できると共に、サブスクのシステムで定期的な収入が確保できます。

そして何よりも、ユーザー(檀家さん)はその事情に応じてお墓の移動が簡単にでき、供養のタイミングも自由に設定できるため安心感が増し、平穏に故人やご先祖様をお祀りすることができるようになります。

これまでのユーザー側は、高額の費用がかかる墓地墓石を用意できなかったり、続く転勤で固定したお墓に縛られる不便を感じていても、「固定のお墓」か「合同供養墓」かの二択しかありませんでした。その隙間(ニッチ)をつなぐ偲墓の登場は、祭祀供養に携わる誰にとってもプラスに働く「解」をもたらしたと言えるでしょう。

SWOT分析で認識する「知彼知己」

前章で示した偲墓の事例は、あくまで一つの例です。実際に偲墓が発想された過程でSWOT分析が活用されたかは存じ上げませんが、結果からみるとお寺を取り巻く「S:強み」「W:弱み」「O機会」「T:脅威」の認識がなされており、それを超える解決策として導き出されたアイデアである、と評価することができます。

現状の課題を突破する(ブレイクスルー)するためには、まずいま自らが置かれた状況を明確に、論理的に把握することが出発点となります。冒頭で記したように、SWOT分析で「知彼知己者、百戦不殆」を実践してみましょう。

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この記事を書いた人

Masahiko Oishi

プロフィール

CI・ブランディング会社の企画調査室長を経てフリーのライターに。
自社開発のフェアトレード、エシカル商品販売業との2足のワラジ。
小学生の時、自由研究で地元の全寺院を調査。
中学生の時、玉虫厨子に魅せられ仏教美術に目覚める。
高校生の時は郷土研究部部長、大学では民俗学を専攻。

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