多摩産材産地見学エコツアーに参加し、理解を深めたおはなし

12月15日に秋川木材協同組合さん主催の「多摩産材産地見学エコツアー」に参加してきました。
どのような目的や内容だったのか、順を追ってご紹介して行きます。
秋川木材協同組合とは?
秋川木材協同組合様のホームページより抜粋しました。
本組合は、昭和24年(1949年)9月に中小企業等協同組合法による事業協同組合として設立いたしました。設立の目的は、組合員の相互扶助の精神に基づき、組合員のために必要な共同事業を行い、もって組合員の自主的な経済活動を促進し、その経済的地位の向上を図ることです。本組合の事業は、共同販売や共同購買、経営及び技術の改善向上、組合員の福利厚生に関する事業などを行っています。
設立当初、組合員は100業者を超えていました。しかし昭和40年代以降、外材輸入の増大などにより、国内林業が停滞すると共に、製材業者も年々減少し、現在の組合員は15業者です。
同業者の減少するなか、本組合では昭和60年に後継者で組織する「秋木二の木会」が発足し、将来に向けた検討が日夜なされました。多摩地域の森林資源は、江戸時代から多摩川や秋川を利用して木材を供給していた歴史があり、多くの木材資源がある地域です。この資源を有効活用し、多摩地域の森林を守り育てていく必要があります。
現在の本組合は、秋木二の木会の会員であった後継者が組合の役員となり、地場産業である「製材業者」、「林業者」によって構成され、組合の運営を担っています。秋川木材協同組合は多摩産材を扱う都内唯一の協同組合です。(令和二年現在)
秋川木材協同組合が他の協同組合と差別化している点は、組合を窓口にして顧客からの注文を受け付けているところです。製材業者によって得手不得手があるので、その中から一番顧客が要望する商品に適した製材業者を紹介しているそうです。
非常に顧客ファーストな取り組みだと思います。製材業者としては、仕事を一手に引き受けたいと思うところです。しかし、長い目で見ると多摩産材ブランドを育て発展させていくには最適な方法です。
今回のエコツアーの目的は
エコツアーは過去に何回か企業や学校関係者を対象に開催されてきました。一般向けに開催したのは今回が初めてとのことでした。
企業や学校単位での参加だと参加者に温度差があり、仕事や授業だから仕方なく参加し、興味を示さず退屈そうにしている人も見受けられたそうです。
今回は、一般人対象で参加は自由、しかも平日昼間ですから、参加者を集めるハードルは非常に高かったはずです。
しかし、ふたを開けてみれば20名も参加者が集まりました。しかも、参加者全員がガチ勢で、進んで何かを学び、持ち帰ろうとする熱い人たちばかりでした。地元からの参加は私くらいで、皆さん遠くから電車に乗って来ていました。平日の朝から参加するとは強者揃いでした。
今回のツアは、参加者はもちろん、参加者自身が媒体となって、多摩産材の現状、多摩産材の活用事例をより広く深く知ってもらう目的で開催されました。
私も多摩産材を取り扱っているので、ある程度知識はありました。しかし、あくまで机上の知識であり、多摩産材の森林を五感で体感することで、多摩産材について理解を深め、今後、多摩産材の伝道者としてより多くの人へ伝えていきたいという思いから参加させていただきました。

オリエンテーション
集合は朝9時30分に武蔵五日市の高架下にあるカフェblan.coさんでした。お店は内外装ともに多摩産材がふんだんに使われた、オシャレで落ち着くカフェです。自家焙煎のコーヒーが売りで、豆にも相当こだわっています。地元食材を使った、鮎のおむすびやあじさい茶など、オリジナリティあふれるメニューもたくさんあって、地元の人、観光客にも人気のお店です。店内にはグリーンが配置され、店名にもなっているブランコがあります。

オリエンテーションでは、ツアーガイドで今回の主催者である秋川木材協同組合の事務局長である髙濱 謙一様より、スライドで日本の林業の現状や問題点、多摩産材についてなど一通り解説がありました。
ここで、少しオリエンテーションの中身をかいつまんで説明します。
日本の国土面積の約7割は森林であり、これはOECD(経済協力開発機構)加盟国及び森林面積が1,000万ha以上で人口が1,000万人以上の国でフィンランド、スウェーデンに継ぐ世界第3位とありました。世界平均が30.5%なのでいかに日本が森林大国であるかが伺いしれます。
東京都の森林率は36.0%で、これも首都となる都市では世界でも有数の森林保有率です。
これだけの森林大国でありながら、直近令和3年の木材自給率は41.1%とかなり少ないのが現状であります。戦後復興に向けて、生育が比較的早い杉の木を植林したにも関わらず、海外の安価な木材に取って代わられ、どんどん自給率は下がっていきました。
実は、弊社がある日の出町で卒塔婆が作られるようになった背景の一つには、周囲の森林が卒塔婆の材質として適した樅の木が自生しており、樅の木は柔らかく、建築にも向かいないからと嫌われていました。ところが、あるきっかけでこの樅の木を使って卒塔婆を作り江戸の町へ売りに行ったところ、飛ぶように売れたため、林業や養蚕を生業にしていた住民が次々と卒塔婆製造へと業態を変化していきました。今では日の出町は卒塔婆製造で全国60%以上のシェアをほこります。
木材自給率を上げる取り組みは、国としても「グリーン成長戦略」として力を入れています。達成には川上から川下まで様々な障壁が存在します。しかし、この3年間で起きたコロナウィルスパンデミック、ウッドショック、ウクライナ情勢、円安などにより、国産材回帰への機運が高まってきたといえます。
これらの予備知識を入れたうえで、実際に現場に行くことで、より理解が深まるという訳です。
いざ多摩産材の森林へ
1時間ほどオリエンテーションを行ってから、いよいよ、多摩産材の森林へと貸し切りバスで向かいました。
バスに揺られること30分で、檜原村の多摩産材の森林に到着です。
檜原村は島嶼部を除くと、東京都唯一の村で人口は2,000人程度、村の9割が森林となっています。東京であることが信じられないほど自然豊かです。日の出町では雪が積もっていなくても檜原村では30cm積もっていたということもよくあります。
今回行った森林は、地元の田中林業という江戸時代から続く会社が所有しています。この森林の他、500ヘクタールの森林を所有しているそうです。500ヘクタールとは5km四方の大きさなのでとんでもなく広大な森林です。

森林を持続可能にするためには、適切な管理が欠かせません。管理の中で重要なのが間伐と枝打ちとなります。
間伐とは?
間伐とは、森林の混み具合に応じて、樹木の一部を伐採し、残った木の成長を促します。間伐をすることで、太陽の光が地表に到達し、下草などの下層植生の発達が促進され、森林の持つ水源涵養機能、土砂災害防止機能、生物多様性保全機能などが増進します。 また、残った木の成長が促されることにより、木材としての価値が高まります。
枝打ちとは
枝打ちとは、木の育ちの悪い枝を切り落として、生育環境を整える作業です。間伐同様下層植生の発達の促進にも繋がります。また、枝が生えている部分は木材に加工した際に、節となるため、枝打ちをすることで節が少ない付加価値の高い木となります。

今回見学した森林も含め日本の森林は大部分が急峻な斜面になっており、登るだけでも非常に大変です。林業が盛んなヨーロッパは斜面がなだらかで専用の重機で伐採、枝打ち、規格の長さへのカットを山の中で行ってしまいます。日本では専用の重機が入れるところはごく一部で、ほとんどが人の手作業となります。
手作業中心であっても、価格が高いわけではなく、直径30cmの立木の状態で700円、丸太にして市場に出ても3,000円程度となっています。この価格をどう見るかは人それぞれだと思いますが、個人的には手間を考えると安すぎると思います。
多摩産の杉はほとんどが戦後復興に向けて植林されたもので、樹齢50~60年を迎えていて、一番市場価値が高い状態で採り頃と言われています。しかし、人手不足もあり、伐採が追いついていない状況です。
森林保護に関する誤解
森林というと環境保護から、伐採はけしからんという誤解があります。たしかに海外では木を伐採しすぎて、はげ山になってしまって伐採が禁止されることもあります。日本の森林に関しては、伐採量は全森林資源量に対して0.53%であり、2%前後が理想的と言われています。
適切な植林から伐採のプロセスは、森林を健全に保つためには必要不可欠です。伐採せずに放置してしまうと、森林は荒れていく一方です。

多摩産材原木市場へ
多摩産材の森で市場に出る前の、立木を見学した後は、再びバスに揺られること30分、多摩産材の原木市場へ到着です。
こちらの原木市場は、弊社がある日の出町に位置し、東京で唯一の原木市場となります。正式名称は多摩木材センター協同組合です。
毎月10日・25日に市が開かれ、近隣の製材業者が競りに参加します。ちょうど伺った日が12日の月曜日だったため一番丸太が少ない状態で、山から切り出したばかりの丸太をトラックで運び込んでいるところでした。
トラックがない時代、丸太は川に流して運んでいました。ここで「丸太は水につけても大丈夫なのか?」という参加者から質問がありました。答えは「問題ない」で、むしろ空気に触れない水中のほうが、菌が繁殖せずに腐らずに長持ちするそうです。また、外気に触れているよりも材木中の水分が徐々に抜けるので、急激な乾燥によるひび割れも起きにくくなるとのことです。昔の写真で、丸太を海に浮かべて、その上に人が乗って移動させているのを見たことがある方も多いのでは無いでしょうか?

市場で競りに参加するには、事業所登録が必要です。参加資格が無くても、製材業者と一緒に市場で丸太を見て、競り落としもらえば気に入った丸太を購入できます。アーティストが多摩産材で作品を作る際に、競りの参加資格を持っている業者と一緒に来て購入していたという話がありました。
競りで余った丸太も、市場関係者が業者にお願いして、購入してもらう様にしているとのことで、地元業者と市場との信頼関係もきちんと作られています。また、購入しても倉庫に入り切らない場合は、市場で保管もしてくれる仕組みとなっており、業者ごとに購入した丸太が積まれていました。

市場で取り扱っている丸太は杉が一番多く、次に桧となります。杉の丸太は断面が紅白に分かれています。白い部分だけの材を白太と呼び、最も採れる割合が少ない希少部位となります。赤い部分は赤身と呼び、こちらは強度が高く柱など建築の構造材となります。白太と赤身が混在したものは源平と呼ばれています。名前の由来は源平合戦から来ています。弊社が取り扱っている多摩産材杉塔婆は源平となっています。
白太は比較的新しく成長した部分で、現役で根から吸い上げた水分を葉まで行き渡らせますが、赤身は水分を吸い上げる管も塞がれていて、一度乾燥すると水に強くなるのと、フィトンチッドと呼ばれる生物を蓄えます。フィトンチッドは菌や細菌、害虫から身を守る成分なので、赤身部分はカビにも強い特徴があります。
製材業者は、丸太の断面で年輪が均一で密になっているもの、表面の枝打ちがされているかをよく見るそうです。年輪が均一で密になっているのは、日当たりが均一で、じっくりと生育した証拠です。枝打ちがきちんとされていれば節が少なくなります。手間暇かけて育てた木のほうが、製材した際にもより価値の高い木材となります。
製材工場見学
木材市場を見学したあとは、あきる野市の製材工場見学へ向かいました。今回伺った中嶋材木店様は弊社が多摩産材を仕入れている会社です。社長は現役のあきる野市長も務めています。

市場で購入した丸太は、先ずは、皮を剥く作業となります。自動化され、次から次へと皮を剥いていきます。ずっと見ていても飽きません。


皮を剥いた状態の丸太はツインバンドソーという機械で製材していきます。この機械は帯状の刃物が回転していて、そこに丸太を送り込むことで、決められた寸法に木材をカットしてくれます。
カットの方向や大きさを決めることを木取りといい、丸太に応じて最も歩留まりが良くなるように木取りをします。通常中心部分から角材(芯持ち材)を取り、周辺から板材を取ります。中心ではなく周辺から角材(芯去り材)を取ることもありますが、歩留まりが悪くなるので、その分高額になります。弊社でも通常は墓標や角塔婆に使う角材は中心部から取った芯持ち材となりますが、要望を聞いた上で、芯去り材を使用することもあります。

製材した木材は、このままでは生木といって水分を多く含んでいます。木材は調湿作用と呼ばれる呼吸をしていて、製材後も水分を吐き出したり、空気中の水分を吸い込んだりしています。調湿作用により反りや歪が発生してしまいます。
木材の含水率を適正にすることで、反りや歪をより少なくします。また、変色や腐食の防止や加工性をよくすることもできます。適正含水率にするために人工乾燥機へ入れられます。天然乾燥と比べ人工乾燥だと木の元来持っている色味や風合いが若干損なわれることがありますが、乾燥までの時間が短い、含水率を適正にできるなどメリットが大きいです。短いと言っても3日~1ヶ月程度(天然だと6ヶ月~1年)この機械に入れるそうです。
武蔵五日市駅舎見学
今回のツアーの最後は、多摩産材がふんだんに使われているJR五日市線終点の武蔵五日市駅舎見学です。
武蔵五日市駅は、登山の起点やBBQ場が近いこともあり、週末やGW、夏休みなると登山客やバーベキュー客で賑わいます。都心からも1時間程度で来られ自然を満喫できる場所ということで大変人気です。
武蔵五日市駅は2016年に「雄大な自然と渓谷の街の拠点駅」 ~多摩産木材を活かした温かみのある駅空間の創出~をコンセプトにリニューアルをしました。
武蔵五日市駅は私も頻繁に利用するのですが、多摩産材がこんなにも使われていることを初めて知りました。

壁面には、黒く塗った杉の正方形の板が、縦横互い違いにはめ込まれ、遠目からは日本の伝統的図柄である市松模様に見えます。単色なので、非常にシックでかっこいいです。この色味は武蔵五日市は昔、木炭産業で反映した記憶を意識しているそうです。

まとめ
解散後は、参加者有志と今回のツアーガイドの方とで、blan.coでコーヒーを飲みながら語らいました。
弊社工場も山に囲まれたところに位置し、普段から森林を見ていますが、ツアーを通して五感を通じて体験でき、非常に多摩産材への理解と想いが深まったと思います。今後は、多摩産材を使用した杉塔婆の伝道者としてさらなる情報を発信し続けていきます。お寺関係者によるエコツアー、檀家さんを集めたエコツアーなんかも企画できればと考えています。

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この記事を書いた人
DAISUKE YAJI
プロフィール
1999年3月 筑波大学第一学群自然学類数学科卒業
1999年4月 株式会社セブン&アイHD入社
2011年10月 株式会社セブン&アイHD退社
2011年11月 有限会社谷治新太郎商店入社
2012年12月 有限会社谷治新太郎商店代表取締役就任
2019年 カラーミーショップ大賞2019にて地域賞(東京都)
2020年 カラーミーショップ大賞2020にて優秀賞
2023年 ネットショップグランプリにて特別賞授賞
2024年 次世代コマース大賞にて大賞授賞
義父・義母・妻・長男・長女・次女・猫3匹の大所帯
趣味はゴルフ、月1回はラウンドしています。


















卒塔婆(50本入)
卒塔婆(1本入)
多摩産杉塔婆
ECO卒塔婆
神式塔婆・祭標(50本入)
神式塔婆・祭標(1本入)
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