
今年は、卒塔婆の原材料価格が異常に高騰した年となりました。
私は、卒塔婆業界に入り10年余りとまだ日は浅いのです。しかし、知る限りは年間最大で10%ほどの値上がりで、緩やかな価格上昇でした。
ところが、新型コロナウィルスのパンデミックが始まった2020年からの2年間で原材料価格は2019年と比較し、1.5~2倍ほどに跳ね上がりました。
原材料価格高騰の背景には、さまざまな複合的な原因があります。
主たる原材料価格高騰の原因は下記の通りで、時系列で解説します。
木材原材料価格高騰の原因
1.ウッドショック
2021年3月頃から影響が顕在化してきました。ウッドショックの原因は
・アメリカでの新築住宅需要の増加や木材相場の変動
・ヨーロッパ諸国の木材需要拡大
・中国の経済回復などに伴う木材需要増により、木材輸入量の増加
・新型コロナウィルスまん延防止に伴う、輸送コンテナの減少
住宅建材と卒塔婆材は異なる場合が多く、棲み分けができていました。しかし、今回は木材相場に引っ張られる形で、卒塔婆の原材料も高騰しました。
ウッド職による値上げは、概ね20%でした。
2.ウクライナ情勢
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、戦争が始まりました。
戦争と時を同じくして、ロシアは丸太原木の輸出規制、ロシア産木材が市場から消え、世界の木材市場も大きな影響を受けました。
日本でのロシア産木材は、木材の総輸入量の1.4%に過ぎません。
一見すると、影響はほとんどないように見えます。しかし、日本のビジネスモデルゆえに大きな影響を受けることとなりました。
ロシア産丸太の80%は中国へ輸出されていて、中国ではロシア産の木材を使って製品に加工し、日本などの第三国へ輸出しているというビジネスモデルとなっています。
フローリング材など建材は需要に対して、供給が足りず深刻なダメージを受けました。
ロシア産材の代替えとして、ヨーロッパ材に注目が集まると、供給に対し需要が大きく上回り、今度はヨーロッパ材の価格高騰が始まりました。
ヨーロッパ材の価格高騰により、2019年と比較して、卒塔婆の原材料価格も約1.5倍と異常な高値となりました。
3.円安
2022年3月上旬まで1ドル115円程度で推移していた為替相場は、11月4日時点で1ドル148円ほどにまで円安が進行してしまいました。10月には1ドル150円のラインも一時突破しました。
木材の取引はドルベースで行われ、輸入時に円に換算されます。例えば、1枚3ドルの板材であれば、3月上旬までは、345円だったものが現時点では444円まで値上がりしたことになります。
円安の原因は、日米の金利政策の違いにあります。
アメリカでは、需要の高まりにより、物価が猛烈に上がっています。物価上昇を食い止めるために、金利を引き上げて、需要を抑えようとしています。
一方、日本ではインフレ率2%達成したとはいえ、原材料価格高騰に依存するもので、需要が旺盛になったわけではありません。引き続き、金融緩和により金利を低く抑えることにより需要回復を狙っています。
ドルで資産を持っていたほうが、金利が高いので、当然市場原理として、金利がほとんど付かない円は売られ、ドルは買われます。
相対的にどんどん円の価値はドルに比べ低くなっていきます。
日米の金利差を埋めるために、日本が利上げを行えば、円安は収まります。
しかし、金利上昇により、ローンの返済額や企業の借り入れた返済額が大きくなるので、家計や企業経営を圧迫し、ますます不況になることが懸念されます。
日本政府も八方塞がりで、運を天に祈るしかないのが現状です。
金融や経済プロでも、今後の為替相場については意見が分かれていて、1ドル200円に行ってしまうのではという見解もあれば、さすがに落ち着くといった楽観的な意見もあり、今後どうなるかは全く分かりません。
今後の卒塔婆価格について
今年に入り、原材料価格高騰により、弊社でも卒塔婆販売価格を2回ほど値上げしました。
年内分の材料に関しましては、確保しており、年内の価格改定を行う予定はありません。
来年以降に関しましては、まだ、正式な原材料価格が発表されていないので、値上げをするか否かは現状答えられません。
弊社としても、コスト削減、生産性向上の施策は継続的かつ最大限行っております。しかし、これ以上のコスト削減・生産性向上をできる余地は少なくなっています。仮にできたとしても、数%程度であり、原材料価格高騰分には到底追いつかず、販売価格に転嫁せざるを得ない状況です。
卒塔婆価格高騰に対する対策
今後も、原材料価格高騰がしばらく続くことは間違いなく、根本的に考え方を変えなくてはならない時代となりました。
弊社では、変革の第一弾として、今まで手を出してこなかった間伐材や集成材を使った卒塔婆の製造を来年以降本格化していくつもりです。
現在、耐久テストや製造ラインの検討に入っています。
1.間伐材
間伐材とは、森林の成長過程で密集してしまい、日当たりが悪くなるなどを避けるために間引いた立木になります。間伐をすることで残った木の成長を促し、森林を保護することにつながります。
弊社のある日の出町大久野地区は周囲を山に囲まれていて、林業も盛んです。間伐材もたくさん出ます。しかし、間伐材は使い道が少なく、山で切り倒したあと、そのほとんどを放置しているそうです。
放置してある間伐材を降ろして、バイオマス発電の燃料として使っている自治体もあります。しかし、燃料としてのみ間伐材を使うというのは、いささか違和感があります。
間伐材を使って卒塔婆が作れば、持続可能性な森林資源へも貢献でき、かつ、減少の一途をたどる日本の木材自給率に歯止めをかけるきっかけにもなると信じています。
お客様にとっても、上がり続ける卒塔婆価格に頭を悩ませることも減ると思います。
2.集成材
集積材とは、木材の端材をつなぎ合わせ、表面に薄くスライスした一枚板を貼った材料となります。集積材を使って卒塔婆を作ります。
通常厚さ9mmの卒塔婆を作るには、厚さ12mm程度の無垢板が必要です。
集成材では、厚さ12mmの無垢板から表面に貼る非常に薄い板を6~7枚が取れますので、1本の丸太から無垢材と比較して、6~7倍の集成材卒塔婆を作ることが可能です。
無垢材と比較して集積材は、製造コストはかかります。それでも、原材料費をおさえることができるため、生産量が増えるほど、全体のコストを下げることが可能です。
デメリットとしては、芯材同士と表面を接着剤で接着するので、耐久性が無垢の卒塔婆に比べ弱いと言われています。しかし、近年は加工技術の向上により、耐久性も克服しつつあります。
まとめ
直近2年間で、世界の状況は全く変わってしまいました。今までのやり方が通用しない世の中になり、企業経営や寺院経営も一段と厳しさをましています。
しかし、状況を変えることは不可能であり、自らが時代の変化に対応しなくてはなりません。
リーマンショックなど過去起きた幾多の世界的な危機のときでさえ、私たち卒塔婆業界はあまり影響を受けずに済みました。それゆえに、危機に対しての感覚が鈍化しているのも事実です。
今新型コロナウィルスを発端とする、木材価格高騰や木材品不足に対しても、当初は甘く考えていた節があります。
同業他社の中には、国に何とかしてほしいと訴える人も少なくはありません。元に戻ると期待している人もいます。
今回の件は不可逆的なことであり、元の世界に戻ることは決してありません。
古い業界体質を変革するのは容易でありません。しかし、今までの常識の範疇で考えるのではなく大局的な視点で世の中をみて、改革していくしか、生き残っていくすべはないのです、
弊社も、間伐材や集成材を使った卒塔婆の普及、木材の代替えとなる新素材をつかった卒塔婆も今後、視野に入れつつ検討していくつもりです。
この記事を書いた人
Daisuke Yaji
「卒塔婆屋さん」代表
プロフィール
1999年3月 筑波大学第一学群自然学類数学科卒業
1999年4月 株式会社セブン&アイHD入社
2011年10月 株式会社セブン&アイHD退社
2011年11月 有限会社谷治新太郎商店入社
2012年12月 有限会社谷治新太郎商店代表取締役就任
2019年 カラーミーショップ大賞2019にて地域賞(東京都)
2020年 カラーミーショップ大賞2020にて優秀賞
義父・義母・義妹・妻・長男・長女・次女・猫3匹の大所帯
最近NVANを5年リースで手に入れたのでソロキャンプや車中泊に挑戦したい
